歴代高柳賞-歴代高柳研究奨励賞

H25年度(2013)高柳研究奨励賞受賞

河田 陽一(かわた よういち)

【 浜松ホトニクス(株)中央研究所部員 】

テラヘルツ波の計測・制御及び応用に関する研究

フェムト秒高強度レーザーの応用研究を経て、現在はテラヘルツ波の応用に取り組んでいる。テラヘルツ波とは、光と電波の境界に位置する電磁波である。テラヘルツ波を発生、検出するにはフェムト秒レーザーを使用する。フェムト秒レーザーの制御技術を活かしたテラヘルツ波の新規計測手法の確立に取りくみ、テラヘルツ波パルスのシングルショット計測に成功した。シングルショット計測とは、従来は時間をかけてサンプリングにより計測していたテラヘルツ波パルスを、スナップショットで計測する技術である。パルスフロントと呼ばれリヤルタイムセンシングが可能になっただけでなく、フェムト秒レーザーの強度分布を回折格子により制御し、テラヘルツ波パルスの時間情報を空間情報に焼き直してから検出器アレイで測定することで、テラヘルツ波パルスのシングルショット計測が達成される。回折格子の設計に関わった経験も役に立った。これにより、テラヘルツ波によるリアルタイムセンシングが可能にな9ただけでなく、時間分解計測への応用も期待できる。

次の段階として、テラヘルツ波の偏光制御の研究に取り組んでいる。光は進行方向に対して縦方向に振動していたり、横方向だったり、その両方の電場振動成分を持っていたりする。従来は、1方向の振動成分のテラヘルツ波のみを発生させ、1方向に振動するテラヘルツ波の変化だけを計測していた。フェムト秒レーザーにより発生させたテラヘルツ波が幅広い波長成分を持っているために偏光の制御は難しかったが、新たな偏光制御素子の研究を進め、任意の偏光状態を作り出す目途が立ってきた。これにより、テラヘルツ波をより精密に制御できると考えている。

今後は、テラヘルツ波も含めた赤外線全域に着目した研究を進める。赤外線の持つ光子エネルギーは低い。しかしその低いエネルギーは、物質の弱い相互作用、動的な機能に関係しているはずである。赤外線でその観察、制御を目指し、光の新たな可能性を探索する予定である。

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