H27年度(2015)高柳研究奨励賞受賞
【従来の研究成果の概要】
電子スピンは量子ビットの担体として非常に有望である。量子力学の基本原理を利用した量子情報処理技術が実現すれば、画像等の情報を原理的に安全に転送し、従来のコンピュータよりも遥かに高速処理を行うことが出来る。これまでに我々は、電子スピン量子ビットの操作には光励起された半導体中のスピン間相互作用の利用が有効であると考え、光による半導体中のスピン操作と量子情報等への応用に向けた基礎研究を行ってきた。
初めに、核スピンによる超微細相互作用を解した電子スピン状態が変化をスピン歳差運動により観測した。核スピンの緩和時間は非常に長いため、メモリへの発展も期待できる一方で、応答速度は非常に遅い。次に、高速応答可能な電子スピン間の交換相互作用によるスピン操作を試み、光励起による電子スピン操作が可能であることを磁場の下で実証した。さらに、量子ビットに対応した電子スピン状態形成を目指し、偏光の重ね合わせ状態をスピンの重ね合わせ状態へ転写・形成しその観測を行った。
【今後の研究計画】
上記のようなスピン間相互作用と偏光によるスピン重ね合わせの形成を利用すれば、外部磁場の全くない状態で、光励起による有効磁場のみでの電子スピン量子ビットの回転操作が期待できる。今後は外部磁場を印加せず、時間分解能が数ピコ秒程度である、ポンププローブ時間分解法により、スピン起源の偏光の時間変化を高精度に測定することにより、光による電子スピン操作の実証に取り組む。この時にバンド構造解析を行うことで、バンド端(Γ点)以外の(主に価電子帯の)量子状態を求め、励起偏光と形成されるスピンの向きの関係を明らかにし、これまであまり利用されてこなかったΓ点以外のスピン状態を積極的に利用し、偏光による電子スピン量子ビット操作の実現を目指す。