H30年度(2018)高柳研究奨励賞受賞
これまでに、有機合成の環境調和化への貢献を目指し、二電子移動型反応に基づく精密有機合成研究を展開してきた。その一つである環境調和型代替合成法に関する研究では、有毒な有機スズ試薬と希少金属のインジウムを必要とした旧型の反応を、無害かつ取り扱いの容易なボロン酸試薬や亜鉛試薬の組み合わせで代替することに成功し、α―メチレンーγ―ブチロラクトン型抗腫瘍性化合物の不斉合成を実現した。また、テトラミン酸に関する研究では、これをキラル素子として利用することで、環隣接位に不斉点をもつ極めて稀なキラル多置換ピリジンを合成することに成功した。この反応ではビピリジン構造体も供給可能であることから、触媒の配位子合成への活用が見込まれる。
最近では、候補者は可視光レドックス触媒による単電子移動型反応が再生可能エネルギーを利用する次世代有機合成の鍵となるとの考えのもと、有機硫黄化合物を基質とする新規な可視光レドックス触媒反応の探索を行っている。論文未発表であるが、これまでに3つの新規な分子変換に成功しており、そのうち脱硫を伴う炭化水素誘導体の合成法は、ノーベル賞受賞研究であるパラジウム触媒反応でさえ高温下でしか実現できなかった炭素一炭素結合形成を低収率であるものの室温下で実現している。この反応は今後、様々な機能性分子の合成への応用展開の可能性を秘めている。
今後の研究では有機合成における理想的なものづくり体制実現の一翼を担う手法の購発を目指し、上記炭化水素誘導体の合成法の効率改善に取り組む。現状では金属から有機物への単電子移動がスムーズに進行していないと考えられることから、通常の有機反応開発では稀な電気化学的分析(特にサイクリックボルタンメトリー)を基質構造の分析に利用し効率的な電子移動を可能とする最適反応条件を導出する。これにつづいて、反応メカニズムの詳細も同様に解析する。さらに将来的には、先のキラル分子合成法にて得られた分子を利用するキラル可視光レドックス触媒の調製を行い、これによる光学活性な炭化水素の合成にも挑戦する。