R1年度(2019)高柳研究奨励賞受賞
これまでの応募者の研究を要約すると、スズを含むⅣ族半導体混晶の実現とそれを利用した電子・光学・熱電デバイスの研究である。分子線エピタキシー法(MBE)および化学気相蒸着法(CVD)を用い、Ⅳ族半導体、特にケルマニウム(Ge)とスズ(Sn)の合金であるGeSn薄膜のエピタキシャル成長における歪やSn組成の制御、Sn原子が原子空孔や表面構造に与える効果の解明、歪を考慮したバンド構造計算に基づくデバイス構造設計、格子振動伝播に与えるSn導入およびナノ構造化の効果解明等を行ってきた。
特に近年は、大きな質量を有するSn原子の活用法として熟電変換素子に着目している。熱電変換材料の特性向上には熱伝導率の低減、すなわち熱伝導を担うフォノンの散乱の増大が重要である。応募者は、SnがSi02上で凝集しナノドットを形成する効果を応用し、Snナノドットを内包するGeSn多結晶薄膜を提案している。Snナノドット/GeSn界面、多結晶粒界、Ge結晶格子位置への重いSn原子導入のそれぞれがフォノン散乱を増大すると期待している。これまでに、MBE法でSnナノドット上にGeを堆積した場合にSnとのミキシングが起こり、約8%の高いSn組成を有する多結晶GeSnが形成され、低い熱伝導率を実現できることを明らかにしている。今秋には放射光施設におけるフォノン状態密度測定によりSn導入の効果を実験的に明らかにする予定である。
また、シリコン(Si)LSIプロセスへの親和性向上と熱伝導率のさらなる低減に向け、高Sn組成を有するSiGeSn三元混晶の開発に踏み出した。本材料は熱電変換応用だけでなく、三元化による格子定数とエネルギバンドギャップの独立制御と、低融点Snの導入による結晶化温度の劇的低減を活用することで、プラスチック基板上へのフレキシブルな論理素子、受発光素子へと応用を期待している。将来は、生体適合性が高く、様々なデバイスへと応用が可能なⅣ族半導体混晶を用いて、体内埋め込みデバイスとその電源を1つの基板上に集積することが応募者の夢である。