R2年度(2020)高柳研究奨励賞受賞
応募者は、大学院生の頃から一貫して、量子コンピュータを用いた情報処理のための理論研究を行ってきた。 量子コンピュータとは、ミクロな世界の物理学である量子力学に則って動作する次世代のコンピュータのことで ある。量子力学に特有の性質を用いることで、従来のアルゴリズムより指数関数的に高速な量子アルゴリズムや、 量子力学が正しい限り絶対に安全な量子暗号など、従来のコンピュータには不可能な情報処理を量子 コンピュータは実現できることが明らかになっている。
一方、2020年夏の現時点での量子コンピュータのプロセッサは最大でも60ビット程度の規模でしかなく、 未だ実用的な計算が可能なデバイスは存在しない。そのため、①量子コンピュータによる新たな情報処理 プロトコルの開発を目指した理論研究、および、②大規模量子コンピュータの開発に貢献する理論研究が 必要とされている。これまでに、応募者は①の方向性の研究としては、主として、複数の量子コンピュータから 構成される量子ネットワークにおける情報処理の研究を行ってきた。特に近年の貢献としては、 量子ネットワークの安全性の向上のために、ネットワークの中間ノードにおいて情報の符号化を行う ネットワーク符号と呼ばれる技術を応用する手法を確立したことが挙げられる。また、②の方向性のこれ までの研究としては、光のスクイーズ状態に対する世界初の量子メモリの開発に理論研究の面から貢献したことや、 量子デバイスのノイズ源となっている量子環境系の性質を推定し、ノイズを取り除くための手法を確立したこと などが挙げられる。
現在は、①の方向性の研究として、連続変数量子暗号における参照光源へのサイドチャンネル攻撃に 対抗するために、新たな光のホモダイン検出法の開発を、②の方向性の研究として、正確に見積もるのが 難しい量子コンピュータの計算精度を、機械学習を用いて検証する手法の開発を進めている。