R3年度(2021)高柳研究奨励賞受賞
私はこれまでに、最新の画像処理技術を利用した医用画像解析や画質改善技術に関する研究を行ってきた。医用画像解析では、身体機能を表す骨格筋をX線Computed tomography(CT)画像から、自動認識する定量解析法の確立を行った。自動認識部に最新の人口知能技術である深層学習を用いることで、従来の画像処理手法では自動認識が難しかった症例においても定量精度が向上することを示し、このことはサルコペニアの早期診断、さらには健康寿命の延伸への寄与が期待できる。
医用画像の画質改善では、X線CTやMagnetic Resonance Imaging(MRI)、Positron Emission Tomography(PET)といった医用画像診断装置について、放射線被ばくや撮像時間の短縮を目的とした画質改善手法の確立を目指し、深層学習を利用した新規画像再構成法の研究を行っている。一般的に、深層学習を含む人口知能技術を医療分野へ応用する場合、あらかじめ大規模な学習データセットを構築することが必要不可欠であり、その収集は患者への負担や倫理的な観点から困難を極める。そこで私は、従来必要であった学習データセットを利用することなく医用画像の画質を改善することができる、教師なし深層学習によるPET画像の画質改善手法を確立した。本技術は、人間の視覚野をモデル化した畳み込みニューラルネットワークの潜在的な画質改善能力を引き出すことで、教師なしによる処理を可能とした。本手法を用いることで、これまでの深層学習を用いた手法では画質の改善が困難であった、前例の少ない症例や新規のPET検査薬開発時など、学習用データを十分に用意できない状況であっても画質を改善することができた。さらには、放射性薬剤投与量の削減による放射線被ばく低減効果や、撮像時間の短縮による患者の負担軽減が期待できる。
今後は、上記技術の臨床機への実装、ならびに臨床での実運用を予定しており、研究成果の医療現場への還元を目指す。