R3年度(2021)高柳研究奨励賞受賞
損傷した骨等の機能復元のためのインプラント治療が国内外で盛んに行われており、優れた力学的性質を有する生体材料の開発が期待されている。インプラント材への要求特性は、高硬度、高靭性、高強度、低剛性等多岐にわたるが、これら全てを発現す生体材料は存在しない。
候補者は、原料粉末にパルス電流を流すことで放電プラズマを生じさせ材料を緻密化させる(と言われている)粉末冶金法であるパルス通電加熱焼結(別名:放電プラズマ焼結)を用い、全ての要求特性を発現する新奇生体材料の開発に取り組んでいる。まず、金属とセラミックに対して焼結過程の逐次観察を行い、焼結におけるパルス通電の役割や粉末の緻密化過程を明らかにした。次に金属(チタン)とセラミック(ジルコニアとアルミナ)を複合化させた材料を作製した。金属とセラミックを均一に分散させた複合材料では高硬度と高靭性は両立しなかったが、材料表面と内部にセラミックと金属をそれぞれ配置した傾斜機能材料ではその両立に成功した。セラミックと金属の特性が両立する生体材料の作製は、これまでに成功例のない稀有な成果である。さらに、複合材料の力学的性質の向上のために焼結中の反応生成物の形成を抑制する方法を開発した。
現在、候補者は、生体材料の低剛性に着目した多孔質チタンの開発を推進している。粉末冶金によるチタンの多孔質化は不可能と言われているが、最近、緻密化に及ぼすパルス電流の検討をすることでその作製に成功した。作製した材料では、低剛性は実現できたものの気孔が欠陥として作用するため低強度であった。そこで、本年は、多孔質チタンをチタン長繊維で強化した"チタン繊維強化多孔質チタン"を作製し、高強度と低剛性の両立を実現する。今後は焼結条件の再検討を行い、チタン繊維の直径および体積含有率、多孔質チタンの気孔率を種々に変化させて力学的性質に及ぼす構造の影響を明らかにする。
以上のように、候補者は電気電子科学に基づいた新奇材料開発を行い、これまでに世界初となる技術を創出しており、今後のさらなる発展が期待できる。