歴代高柳賞-歴代高柳研究奨励賞

R3年度(2021)高柳研究奨励賞受賞

堀 匡寛(ほり まさひろ)

【 静岡大学電子工学研究所准教授 】

シリコン・トランジスタにおける
磁気共鳴下のチャージポンピングに関する研究

集積回路の高性能化は、シリコンを基盤とするトランジスタの動作速度と信頼性の向上に支えられている。トランジスタの電流は、母材となるシリコンとゲート絶縁膜との界面を流れるため、トランジスタの性能は界面近傍に存在する欠陥により大きく劣化することが知られている。このため、界面欠陥を高精度で観測する評価手法が要求されていた。界面欠陥を評価する手法としては、チャージポンピング法が古くから知られており現在でも主たる評価手法となっているが、同手法では、界面欠陥内に存在する電子の状態の詳細を観測することが困難なため、界面欠陥の構造の同定には至っていなかった。

一方で近年、量子情報処理技術の分野において、シリコン・トランジスタ界面の欠陥は、単なる「欠陥」ではなく、電子スピンを制御するための「構造体」であるという認識が高まっており、このため、欠陥の構造とそこに存在する電子スピンの状態を調べる手法の確立が期待されていた。

以上の背景のもと、候補者は、従来のチャージポンピング法と電子スピン共鳴法とを組み合わせることにより、新しい界面欠陥評価手法を確立した。これにより、これまで明らかにされていなかったトランジスタ高周波動作中の電子・正孔再結合電流の原因となる界面欠陥の構造の同定に成功した。同時に、再結合過程がスピンに依存した2電子過程であることを明らかにするなど、再結合電流の詳細な機構の解明に成功した。同手法は、トランジスタの信頼性評価、ならびに、量子情報処理における電子スピン制御の分野において、新たな分析手法となることが期待される。

今後は、同手法を微小サイズの最先端トランジスタへ適用し、少数電子スピン操作へ応用することを目指す。また、シリコン以外の半導体材料の界面欠陥評価にも適用していく予定である。

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