R4年度(2022)高柳研究奨励賞受賞
【これまでの研究概要】
守谷は無機固体化学、錯体化学、有機金属化学という多様な研究分野に携わってきた。この経験から獲得した分野融合的な視点に基づき、現在は革新的な固体電解質の開発と全固体電池への展開
を進め、固体電解質の新たな探索領域として分子結晶に大きな可能性があることを独自に見出している。従来、分子結晶のイオン伝導性は実用レベルには遠く及ばず、固体電解質材料として注目されてこなかった。一方、守
谷は分子性アニオンを持つリチウム塩と種々の小分子を組み合わせ、自己集積化と結晶化により三次元的な秩序構造を構築することで、イオン伝導パスを結晶格子中に持つ分子結晶を開発してきた。また、単結晶 X 線回折を
用いた分子結晶の詳細な構造解析と、種々の電気化学測定による固体電解質としての物性評価を組み合せ、分子結晶電解質の構造-物性相関の理解を進めてきた。その結果、分子結晶電解質の特性向上に向けた設計指針を得る
とともに、高速 Li イオン伝導性を示す分子結晶電解質を作製し、さらには分子結晶電解質の融解と凝固を利用した非常に簡便なプロセスで全固体電池を作製し安定的に動作させることに成功している。上記の結果は固体電
解質としてはほぼ手付かずであった分子結晶が、30 年以上も前から固体電解質の候補として知られているセラミックス、ガラス、ポリマーに並ぶ第四の材料として大きな可能性を有しているとともに、電子科学分野の新たな研究領域を切り拓く嚆矢となりうることを示すものである
【今後の展開】
炭素循環社会の実現が求められるなか、全固体電池の大規模普及は重要な課題となっている。
全固体電池の実現には、優れたイオン伝導性を有しながら、電極―電解質間に良好な界面を容易に形成できる固体電解質が必要である。分子結晶電解質は高速イオン伝導に求められるイオン伝導パスと、界面形成に必要な適
度な柔軟性を併せ持つことから、革新的な電解質材料と位置付けられる。今後も新規分子結晶電解質の作製と特性向上を進め、新物質開発の立場から全固体電池の普及に貢献することを目指す。