歴代高柳賞-歴代高柳研究奨励賞

R5年度(2023)高柳研究奨励賞受賞

上野山 聡(うえのやま そう)

【 浜松ホトニクス株式会社 中央研究所研究員 】

高機能光学デバイスのためのナノフォトニクス技術の研究

私は学生時代からナノスケールの微小光学素子から構成される新奇光学素子の研究を行ってきた。目に見えないナノスケールの構造に光を通すことで光学特性が変わることに興味を持ち、魅了された。

浜松ホトニクスに入社後は学生時代の研究に関連したメタサーフェスの研究に従事している。メタサーフェスは薄膜フラットでありながらサブ波長の周期で配列されたナノスケールの構造体であり、構造形状を変化することで自在に光学機能を制御できる。従来の光学素子を劇的に小型化できるメタサーフェスは世界中の研究者によって熱心に研究が進められてきた。しかし、ほとんどの研究者はメタサーフェスの光学機能に着目しメタサーフェスと組み合わした光学デバイスの性能については注目していなかった。そこで私は光学デバイスメーカーで働く経験を生かし“メタサーフェス×光学デバイス”を突き詰める研究に着手した。 私が手掛けたメタレンズの実装例の1 つに当社製品のMPPC がある。MPPC はA PD をマルチピクセル化した微弱光検出器であり、ピクセル間に形成されるトレンチはクロストークを抑制する一方で感度を制限する課題がある。高精細画素になるほど電極やトレンチにスペースを食われ有効領域が複雑になる。従来用いられるマイクロレンズは複雑な有効領域に光を届けるのは難しい一方、メタサーフェスレンズ(メタレンズ)は構造の配置を工夫すれば入射光を有効領域に導くことができる。また薄膜フラットなメタレンズの形状は半導体プロセスと非常に相性が良い。私はメタレンズ形成に至るまでの全ての製作工程を半導体プロセスで実施した メタレンズ一体型M PPC” の実現に成功した。またメタレンズの配置に工夫を施すことで効果的に入射光を有効領域に導き、70%以上の大きな受光性能の向上を達成した。

メタサーフェスは波長や用途に応じて形状やサイズ・材料を選択する自由度の高さが魅力的である。将来的には様々な光学デバイスに適したメタサーフェスを提案し、メタサーフェスを備えた光学デバイス製品を世に送り出したい。

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