歴代高柳賞-歴代高柳研究奨励賞

R6年度(2024)高柳研究奨励賞受賞

臼杵 深(うすき しん)

【 静岡大学 学術院工学領域 准教授 】

計算イメージング顕微鏡の研究開発

私はこれまでに,「光」と「計測」をキーワードとして,三次元計測機器,レーザ応用機器,超解像顕微鏡等のハードウェアの開発とその高度化について研究開発を行ってきた.静岡大学への着任以降は,計測情報処理や CAD/CAM の研究開発に携わる機会を得たことにより,ソフトウェアの研究開発を強く意識するようになった.その過程で,先ず注目し提案したのが,ナノ・マイクロテクノロジーを対象とした形状モデリング技術である.光による高速かつ精密な計測技術を利用してインプロセスでワークの高精度な形状モデルが得られれば,数値解析によって製品の良否を迅速かつ的確に判別でき,無駄のない効率的な生産工程を生み出すことが可能となるため,低コスト化,省エネルギー,持続可能な社会の実現に大きく貢献できる.さらに,生体細胞のモデル化に応用し,定量的な状態把握や成長制御が可能となれば,高齢化社会において最も重要な医療への貢献も期待できる.続いて注目して研究を着手したのが計算イメージングである.計算イメージングは,多様な情報取得と適切な計算処理により,従来の光イメージングの物理的な性能限界を突破する革新的手法である.情報の多様性を確保するためのパラメータ(照明,レンズ,イメージセンサ,等)を少しずつ変化させて複数の情報を取得することにより,レンズやセンサなどの機器の物理的性能が低くても高いイメージング性能が得られるため,低コスト化が可能であり,持続可能な社会の実現に大きく貢献できる.光とイメージセンサによる高速な情報取得に加えて大規模計算処理が必要であるため,近年のコンピュータの飛躍的な進歩があって初めて実現した技術である.計算イメージングは今世紀に登場し,現在は情報科学分野やライフサイエンス分野が先導する形となっている.私は,開発した計算イメージング顕微鏡を,ライフサイエンス分野における神経活動の可視化,医療分野における顕微内視鏡,製造分野における表面計測・検査,に応用することについて提案し,研究開発を実施してきた.引き続き次世代の計測技術開発を推し進める一方で,これからは再び古典的な精密計測技術にスポットライトを当てることが重要と考えている.例えば,測定回数を大幅に増やすことによるシンプルな直接測定における誤差低減,間接測定における基準器の多様化,センサフュージョン(計測の多角化),を併用し,自動測定と計算処理との組み合わせで革新的計測技術を生み出すことができる.これは現在取り組んでいる計算イメージングと相通じる概念であり,最優先研究課題としたい.

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