R6年度(2024)高柳研究奨励賞受賞
被推薦者は、2012年から空間光変調器(SLM)を用いた超短パルスレーザー光の波形制御技術の研究に取り組み、高精度かつ高自由度なフェムト秒波形制御技術の開発に成功した。2019年からは、精密に制御されたパルス光を用いた光物性計測手法の研究に着手し、簡便かつ計測対象に対する制約が少ない高精度な屈折率分散計測法を開発した。
開発された波形制御技術は、次の2つの操作を繰り返す最適化手法に基づく。(1)超短パルス光の時間波形を短時間フーリエ変換して、スペクトログラム領域で数学的操作を行うこと、(2)スペクトログラムから時間領域に波形を逆変換して再度数学的操作を行うことである。この反復最適化により、時間波形を所望の形状に成形する位相スペクトル(SLMパターン)の設計を実現した。この手法では、時間波形の制御のみならず、スペクトルの時間変化も設計可能であり、パルスごとに中心波長の異なる色別マルチパルスを高精度に生成できる。こうした手法は他に類を見ないものである。
また、この波形制御技術を活用した屈折率分散計測法は、色別マルチパルス光を透明な分散媒体に透過させ、出力光のパルス間隔を自己相関器で計測し、パルス間隔の変化から屈折率分散を求める手法である。特に、サブナノメートルの分解能でスペクトル強度の精密な制御技術を用いることで時間波形を安定させ、分散媒体によって生じるパルス間隔変化を僅か数十フェムト秒の精度で検出している。
今後は、この手法を用いて、光集積回路で使用される光導波路の分散計測への応用を進める予定である。この技術を光集積回路の設計・製造プロセスに応用することで、次世代高性能光デバイスの実現とその製造に大きく貢献することが期待される。また、これまでの研究実績と海外勤務経験を活かし、欧州の大学との共同研究を立ち上げ、光集積回路の評価技術確立のプロジェクトリーダーとして、新たな光産業創成の一翼を担っている。