歴代高柳賞-歴代高柳記念賞

H1年度(1989)高柳記念賞受賞

岡本 尚道(おかもと なおみち)

【 静岡大学工学部教授 】

光導波路及び非線形光学効果の研究

最近、非局在のパイ電子を持つ有機物にドナー基、アクセプター基を付加した材料が、光波に対して従来の無機材料より桁はずれに大きな非線形光学効果を示し、その応答も高速であり、光学破壊しきい値も大きいことが注目され、高速高感度でかつ安価な光変調素子や、半導体レーザを基本波光源として半波長の光を効率良く発生する簡便な第2高調波発生(SHG)素子等の光デバイスを目指して研究が活発に行なわれている。本研究は、有機非線形光学材料の開発を本学応用化学科の松島助教授と協力して行い、標準試料の14倍のSHG活性を示すブチルニトロアニリンを新たに合成した後、パラニトロアニリンとそのNーアルキル誘導体の混合物が飛躍的に大きなSHG活性を示すことを見出した。次に、有機材料は上記の優れた特長を有するものの、光デバイス作製のための大きな単結晶が出来にくいとか、結晶の配向制御が困難とか、機械的強度が劣る等の欠点がある。そこで、有機材料を高分子中に添加した薄膜を強電界下で熱処理し、電界による配向制御を行う試みとして、高分子ポリメチルメタクリレートと非線形材料メチルニトロアニリン等の薄膜を作製し、大きなSHG活性を得た。さらに、ガラスのクラッド中に結晶の配向を制御して有機非線形材料のコアを成長させ、非線形光ファイバのSHG素子を作製する研究も続けている。

3次の非線形光学効果の1現象であるカー効果は、光波自身の強度によって屈折率が増加(自己集束型)、又ほ減少(自己発散型)するが、この性質を各種光デバイスへ応用することが考えられる。本研究では、まず、2層のカー非線形媒質からなる光導波路の興味ある伝搬特性を明らかにした。さらに、自己集束型の非線形媒質をコアとする曲り光導波路、及びテーパ光導波路を適切に設計すると、導波される光波電力があるしきい値を越えたとき、電力透過率が零から1近くに急激に増加する特性となり、光しきい値素子として動作することを明らかにした。このしきい値素子は、光通信において光ファイバ中を伝搬するパルスが分散によって幅が広がるのを圧縮し伝送容量を増加させるとか、光のみによって動作する光増幅素子や光ANDゲートに利用することを理論的に導くことが出来た。今後の応用を期待し、研究を進めている。

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