H1年度(1989)高柳記念賞受賞
エレクトロクロミック(EC)現象は電流による可逆的着消色現象で、鮮明でかつ偏光性のない非発光性の新しい表示法として注目されている。また光の透過率を自動的に変調できる調光窓及び防眩ミラーとしての実用化も進められている。代表的なEC材料はW03であって、電気化学的着色操作によって近赤外に極大を持つ幅広い吸収帯を生じ、青色に着色する。しかし吸収帯の大半が赤外域にあるため、着色効率は高くなくコントラストも十分ではない。本研究ではW03とMoO3の混合膜を用いることにより吸収帯が短波長側に広がり、可視域の着色効率とコントラストが大幅に改善されることを示した。これは混合膜ではMOとWのイオン間の電子遷移による吸収帯が高エネルギー側に存在するためであって、光吸収スペクトル及び温度変調分光の測定に基づいてこの吸収過程の存在を確めた。
W03E C膜はこれ迄真空蒸着法で作られてきている。しかし蒸着膜では基板への付着が弱くデバイスとしての信頼性が十分でない。また蒸着法ではWとOの組成比の制御が困難で、EC動作に最適の組成を得ることが困難である。本研究ではスパッタ法によるW03膜の作製を試み、蒸着膜に比して高効率でかつ安定なEC膜が得られることを示した。従来スパッタ法では良好なEC膜は得られないとされてきているが、その原因が膜作製時の基板温度の高いこと及び作製したままの膜に化学結合手の不飽和な酸素が存在するためであることを明らかにした。
W03は負にバイアスした時に着色する。これと正にバイアスしたときに着色するEC膜とを組み合わせた相補性ECセルを作製すれば、安定で高効率の動作が期待される。この種の陽極性のEC材料としては酸化イリジウムが知られているが、着色効率が低くかつ高価な材料である。本研究では安価なNiO膜が高能率の陽極性EC膜となることを示し、高性能相補型ECセルの開発への途を開いた。