H2年度(1990)高柳記念賞受賞
核融合研究では当初より、閉じ込め磁界を横切る方向への異常に大きな粒子損失が問題になっている。この現象は異常拡散またはこれを指摘した研究者にちなんでBohm拡散と呼ばれている。
磁化プラズマ中で励起される低周波波動がこの原因と考えられたが詳細については不明であった。私達はプラズマ中の波動と輸送現象の関係に興味を持ち基礎研究を始めた。安定なプラズマである弱電離アフターグローでも、短い放電管では印加磁界により方位角方向に伝わる低周波波動が励起され、相互に直交する波動電界と磁界とのE×Bドリフトによる異常拡散が生じた。その後セシウムプラズマを使った実験等により、異常拡散は自然励起の波動による密度揺動と密接な関係があることが明らかにされた。荷電粒子は波動電界によっても散乱されるため、導電率(或は電子の実効衝突周波数νeff)をも異常にする。イオン音波により乱されたプラズマのνeff及び拡散係数の正常値からの増大と密度揺動との関係を実験的に明らかにした。これらの成果は理論により予測された異常拡散係数と密度揺動の関係を裏付けるものであり、異常拡散の発生機構に関する理解が深められた。拡散係数の新たな測定法として拡散波の利用に着目し、乱流プラズマ及び低密度プラズマに適用してその有効性を証明した。
ドリフト波は異常輸送現象に深く関与し、その挙動、特に管壁から混入する不純物やこれと同じ周波数帯域の静電イオンサイクロトロン波とのモード結合による影響、を理解することは重要である。密度比の制御された2種イオンプラズマを生成し、実験と理論の両面からこれを明らかにした。
プラズマ輸送現象に関する上記知見の工学的応用として、熱を電気に直接変換する熱電子発電器の出力特性改善と実用化に向けた研究を取り上げた。熱電子発電器では、内部電流による誘導磁界が電子の軌道を歪めて、出力電流を低く抑えることが懸念された。しかし発電器内では不安定波動が励起され易く、波動電界と誘導磁界による電子の輸送増大により出力電流の低下が避けられると考え、実験と理論計算を行いこれを証明した。発電器は電極間隔の短いことが実用上の問題点であるが、数値計算を行ったところ、その拡大は出力特性に著しくは影響しないことが明らかにされた。今後実験による検証を通じて実用的規模の熱電子発電器の完成を目指したいと考えている。