歴代高柳賞-歴代高柳記念賞

H3年度(1991)高柳記念賞受賞

助川 徳三(すけがわ とくぞう)

【 静岡大学電子工学研究所教授 】

高純度チャネルを用いた静電誘導半導体デバイスに関する研究

近年、高速のパワーデバイスならびに、低“オン”抵抗および高“オフインピーダンスをもち、かつ高速切替のできるスイッチ素子が要求されている。本研究はこれらの要求を叶えるような静電誘導(SI)効果を利用したパワーデバイスの開発を目的におこなったものである。その内容はデバイスの構造の検討と、液相成長法を基礎としたデバイスの新しい製作技術に関する。

オフイッピーダッスとオン抵抗にはトレードオフがあり、“オン・オフ”比を拡大するには、突破口を開く必要がある。本研究では、この問題を解決するために、真性に近い高純度の半導体領域でチャネルを形成し、電流の導通路とすることを考えた。これにより、ゲートに加えるバイアス電圧が小さくても、チャネル領域のキャリアを完全に空乏化できるため、高いオフインピーダンスが容易に実現できる。一方、ゲートにゼロバイアスあるいはオン信号を加えた場合には、n+-n-接合によるチャネル部へのキャリアの蓄積効果によって高いコンダクタンスが得られるため、低オッ抵抗が容易に得られる。これらの考えを基にして、コンピュータを用いてシミュレーションをおこなった結果、高純度チャネル部が容易に空乏化できること、ならびに高電流密度が得られることが解明できた。さらに遮蔽ゲート構造を考案し、特性改善ができることを示した。

高純度チャネル領域を形成するためには、まず高純度半導体領域(n-)、と高不純物濃度の領域(n+)との急峻なn+-n-接合の製作が不可欠である。本研究では溶媒と溶質との比重差を利用した新しい液相成長法を考案し、これを応用して高純度の半導体基板上へ高不純物濃度をもつ厚い結晶層を成長する謂ゆる逆エピタキシーの技術を開発した。これによってはじめて格子整合のとれた急峻なn゛-n一接合が形成でき、高純度チャネルを用いたSIデバイスの製作が可能になった。さらにこの逆エピタキシー技術をGa As 系に適用し、高速応答が期待できるGa As SI サイリスタの実現への道を拓いた。

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