歴代高柳賞-歴代高柳記念賞

H4年度(1992)高柳記念賞受賞

熊川 征司(くまかわ まさし)

【 静岡大学電子工学研究所教授 】

動的環境利用によるIII-V族化合物半導体の
大型且つ良質単結晶成長に関する研究

III-V族化合物半導体単結晶は、光デバイス等の基板として重要であるにも拘らず、使用される種類は少ない。理由は、二元化合物ではファセット域の存在やストイキオメトリからのずれによる不均一組成の問題がある。三元や四元化合物の場合は、成長結晶と原料融液間に大きな組成比の乖離が在り、結晶成長時の組成的過冷却融液の発生が単結晶の大型化を妨げている。本研究は、これらの問題を克服し大型で良質の化合物半導体単結晶を成長させるのを目的として、三つの新しい結晶成長技術を開発した。何れも、結晶成長系が動的環境になる様に結晶と融液間に相対運動を与えて、固液界面近傍の過剰不純物や構成元素の蓄積を軽減させている。

一つは、結晶回転引上げ装置の融液溜増蝸に、最大150Wの10kHz超音波振動を導入した。 lnSb成長結晶では、過冷却融液に因るファセット域の縮小と不純物濃度の均一化を達成し、超音波振動が融液流、成長界面形状、広がり抵抗や成長速度等に与える影響を研究した。次に、大型化が困難なlnGaSb三元化合物の結晶成長を行い、lnの混合比や単結晶長と振動出力の関係、ファセット域の存在、融液温度変動と周波数解析、結晶中のボイドを研究した。以上より、融液への超音波振動導入が、不純物濃度の均一化と大型単結晶成長に有用であることを実証した。

二つは、種結晶を120°以内の角度で正転、逆転を繰返しながら融液から引上げ、結晶成長を行った。結晶成長速度を微視的にも一定にさせ得るので、速度変動に因る不純物縞が形成せず、不純物濃度の均一な単結晶成長が可能となった。

三つは、ブリッジマン法に回転運動を付随させた技術である。成長界面への融液の被覆率を60~90%にし、融液回転により組成的過冷却の発生を抑制した。lnBiSb、lnGaSb等の半導体結晶を大型に成長させ得た。この方法を四元のGalnAsSbに適用し、1~2mm厚の単結晶を得、更に熱力学的検討を加えた。以上の研究成果から、動的環境を利用した時のIII-V族多元化合物半導体の大型且つ良質単結晶成長に関して、多くの有用な知見を得ることができた。

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