歴代高柳賞-歴代高柳記念賞

H5年度(1993)高柳記念賞受賞

小川 敏夫(おがわ としお)

【 静岡理工科大学理工学部助教授 】

高性能圧電セラミックスおよび強誘電体薄膜の開発研究

  1. 弾性表面波(SAW)フィルタ用セラミック基板として、周波数温度特性面からこれまでほとんど検討されていなかったPZT菱面体晶系組成を研究し、SAWがバルク縦波と横波の合成波である点に着目してSAW温度特性を改善した結果、初めて10.7MHzFM用SAWフィルタおよびTV/VTR-IF用SAWフィルタとして商品化した。また、この組成のもつ低誘電率から、出力電圧係数の大きい焦電センサを商品化した。さらに、TV-IF用SAWフィルタとして、セラミック基板に要求されるファイングレイン化およびポアーフリー化技術を通して、これまでの一般的な窯業製造工程から、クリーンな環境下での製造工程への端緒となる研究開発を行うと共に、ポアフリーセラミックスの製造のため新たな酸素雰囲気焼成法を実用化した。
  2. 強誘電体薄膜を強誘電体メモリ、焦電センサ、圧電センサ等に応用するためには、膜の化学量論組成が保たれ、さらに、結晶配向(自発分極方向)の制御が不可欠である。鉛系強誘電体はPbOの蒸気圧が高いため、薄膜化に際してPbOの蒸発に因る組成ズレを起こし易い。この解決には、酸素ガス圧約ITorr中でのレーザ・アプレーション法による成膜が極めて有効であることを初めて実証した。一方、膜の結晶配向の制御は膜と基板との熱膨張係数差により、膜がキューリ一点を通過する際、膜自体に圧縮あるいは引張り応力を加えることで達成できた。さらに、強誘電薄膜用電極材料として、これまでPbOに対して成膜温度600℃でも化学的に安定な白金が用いられてきたが、これに代わるものとしてアルミニウム含有ニッケル合金が有用であることを明らかにした。 PbOと電極との反応防止にはニッケル合金電極表面上に生成した厚さ約20nmのアルミナ層が寄与しており、ペロブスカイト相の生成の促進と同時に電極と膜との密着強度の向上にも貢献していた。以上の研究成果から、強誘電体薄膜デバイスの実用化に関して、多くの有用な知見を得ることが出来た。

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