歴代高柳賞-歴代高柳記念賞

H6年度(1994)高柳記念賞受賞

渡邊 健蔵(わたなべ けんぞう)

【 静岡大学電子工学研究所教授 】

スイッチド・キャパシタ技術を用いた
アナログ・ディジタル変換器とその応用に関する研究

高機能電子システムを高密度集積可能なCMOSプロセスを用いて1つのシリコン基板上に実装する応用指向型アナログ・ディジタル混載集積回路が今後の電子工業を支える電子部品として注目されている。このようなシステム・オン・チップを実現する上で最も問題となるのが、現実のアナログ領域と信号処理のディジタル領域とを橋渡しするアナログ・ディジタル(AD)変換器であり、ディジタル集積と同じCMOSプロセスによる高密度AD変換器の開発が強く要望されている。本研究はこのような背景の下になされたものであり、その研究成果は以下の3つに大別される。

  1. CMOS演算増幅器はオフセット電圧が大きく、低開放利得で低速である。又、回路接点と基板間には寄生容量が存在する。更に、アナログスイッチにはクロック信号の漏洩が付随する。 CMOS回路のこれらの誤差要因に影響されることなく高精度のアナログ演算を行う増幅器、積分器、サンプル・ホールド回路等の基本回路をスイッチドキャパシタ(SC)技術を用いて開発した。
  2. 上記基本演算回路による二重積分型、電荷平衡型、逐次比較型等のAD変換器の構成を提案し、従来のバイポーラ技術によるAD変換器と同等の精度が得られることを理論と実験によって明らかにした。特に、逐次比較型では集積化に適した新しい変換アルゴリズムを提案し、その有効性を明らかにした。
  3. 開発した上記各種AD変換器を容量型センサの信号処理に応用した。対象としたセンサは湿度、圧力、差圧変換器である。これらの応用は、センサとインターフェイスを一体化する知能センサへの途を拓くものとして高く評価されている。

本研究の主題であるスイッチドキャパシタ技術によるアナログ・ディジタル混成信号処理は世界に先駆けて行われたものであり、上記研究成果を実用化するために民間企業との共同研究が進められている。

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