歴代高柳賞-歴代高柳記念賞

H18年度(2006)高柳記念賞受賞

田部 道晴(たべ みちはる)

【 静岡大学電子工学研究所教授 】

シリコン単電子デバイスの開発とフォトン検出に関する基礎的研究

単電子デバイスは、電子1個1個のトンネル移動を制御するデバイスであり、1980年代後半に金属や化合物半導体を中心に研究が始まった。一方、Siについては、やや遅れてMOSFETの微細化限界を解決する手段として単電子デバイスの魅力が認識されるようになった。本研究は、Siを用いた単電子デバイスにかかわるものであり、世界で初めてのSi単電子トランジスタの実現に始まり、多重接合型単電子・単正孔トランジスタとそのフォトン検出への応用、ランダム多重接合デバイスにおける単電子の規則転送など、幅広い視点でSi単電子デバイスの可能性を示してきた。

すなわち、1994年、Siのコア寸法10nm程度の微細な細線をチャネル部とするMOSFETが単電子トランジスタとして動作することを見出し、世界で初めて室温近い高温でも動作する単電子トランジスタを実現した。それまでは、極低温で動作するものが大部分であったため、大きな一歩であった。その後、ウェハボンディングによるSOI基板構造とナノメータ領域での選択酸化とを組み合わせたプロセスを開発し、光応用に適したマルチドット型Si単電子・単正孔トランジスタを作製、報告した。これを基にして、可視光領域で個々のフォトン吸収に対応して電流値がステップ的に変化することを見出した。これは、最も高感度な電位計である単電子トランジスタの特徴を生かして、世界に先駆けてSiでフォトン検出を実現したものであり、光・電子融合技術にとって重要な基礎的成果である。さらにナノスケールの多重トンネル接合形成法として人工転位網を利用した方法を発案し、それをもとに形成したデバイスで単電子トランジスタ特性が得られることを示した。また、ごく最近、ランダムトンネル接合系における電子1個の規則転送(単電子ポンプ)の実験に成功した。

今後、ナノエレクトロニクス分野は、フォトンの利用と電子1個の規則転送が重要なコア技術になるものと思われ、本研究はその基盤を与えるものである。

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