歴代高柳賞-歴代高柳記念賞

H20年度(2008)高柳記念賞受賞

冨田 誠(とみた まこと)

【 静岡大学創造科学技術大学院教授 】

微小球共振器構造を利用した光の発光、伝播の制御

光の波長オーダーの大きさをもった真球度の非常に高い微小球構造を作り出し、このフォトニック構造に特有な超高Q値の共鳴モード(whispering Ganery Mode)を利用することによって、光の発光、伝播の制御にかかわる、革新的な研究を進めた。

第一に、光の発光制御にかかわる研究としては、微小球共振器構造をもった蛍光体を開発し、共振器量子電磁気学(QED)的な視点からの新しいナノ蛍光体の開発手法を導入した。物質の発光特性は、物質自身の特質のみによって決まるのではなく、その物質のおかれた幅射場の状況にも大きく依存する。真球度の高い微小球蛍光体からの電子線励起スペクトルから、蛍光原子の遷移周波数が共振器モードに共鳴する場合には自然放出レートが増強され、一方、非共鳴な場合には減少することを実証した。ディスプレイ、発光素子など蛍光体は電子技術の根幹をなしている。従来の物質探査とはまったく異なったここでの新しい蛍光体の開発の手法は、発光効率の飛躍的改善など、フラットディスプレイをはじめとする急速に発展しているテクノロジーへより優れた蛍光体を提供する可能性を秘めている。

第二に、光の伝播制御にかかわる研究としては、超高Q値の共鳴モード特有の非常に鋭い共鳴周波数構造を利用し、微小球フォトニック構造によって光の伝播の速度を大きく制御し、「速い光」「遅い光」を作り出す新しい技術を開発した。この中で、微小球の特定の共鳴モードの選択的、高効率な励起手法の開発、連結微小球によって単一球では不可能な機能的な構造分散を作り出す理論の提案、などのブレークスルーを進めた。あわせて、従来の群速度の概念が破綻する強い分散媒質中でも有効なより一般性のある群速度の概念を新しく確立した。光の伝播制御は、光情報処理、量子情報処理ゲート、光ジャイロなどの光電子技術にとって重要な要素となる。

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