H22年度(2010)高柳記念賞受賞
音剌激に誘発される中枢神経電位を聴性誘発電位(auditory evoked potentials :AEP)と呼ぶ。頭皮電極より導出されるAEPのうち、音刺激後10msから50ms程度の潜時で出現する中潜時AEPは、被験者の意識レベルを反映する。申請者は、1995年より英国グラスゴー大学のGavin Kenny教授と協力して、AEPを用いた麻酔深度定量装置を開発してきた。
この装置は、麻酔科医師が手術中の患者の意識レベルの評価に利用するため、小型で外来ノイズの多い手術室の環境で動作するよう設計されている。AEPを計測するためには、音刺激に同期して誘発電位を加算増幅し、背景の皮質脳波を減弱させる必要があるが、本装貴は反応時間を短縮し麻酔深度の変動に迅速に追従するために加算回数を256回に制限した。計測したAEP波形そのものでは、臨床現場で定量評価することが困難であるので、波形解析にてOから100に数値化して3秒毎に表示できるようにしAEP indexと命名した。
申請者が中心となって行った研究は、AEP indexと皮質脳波を解析した指標であるbispectral index、95% spectral edgefrequency、median frequencyとを様々は臨床状況において同時に記録し、AEP indexの皮質脳波指標に対する優位性を明らかにすることであった。研究の結果、AEP indexは皮質脳波指標と比較して、意識の有無をより正確に判別でき、人工心肺装置による低体温状態でもより安定した計測が可能で、麻酔薬の種類に影響を受けにくい利点があることを明らかにした。また、AEP indexは気道刺激や手術の皮膚切開刺激などに反応する体動や血圧・心拍数の変動をより正確に予測する能力を持つことも報告した。
一連の研究開発の成果として、英国でaepEX monitorとして製品化され、2009年には我が国でも医療用機器として承認されて医療現場で使用されるようになった。