歴代高柳賞-歴代高柳記念賞

H24年度(2012)高柳記念賞受賞

原 勉(はら つとむ)

【 浜松ホトニクス(株)取締役中央研究所長 】

空間光変調器およびその応用に関する研究開発

空間光変調器(Spatial Light Modulator: SLM)は、2次元の光の位相・偏波面・振幅・強度の分布を、書き込んだ情報によって変調させるデバイスで、一般的にアドレス部と光変調部から構成される。つまり、書き込み情報により光変調部の光学的特性を変化させ、その変化に応じて読み出し光が変調され、書き込み情報を反映した出力光を得ることができる並列3端子デバイスである。

我々はまず、光電面をアドレス部とし、光変調部として電気光学結晶板(LiNb03)から構成される真空管方式の空間光変調管(MSLM)を完成させた。 MSLMは高感度であり、かつメモリー機能を有し、デバイス内部で演算処理も可能な多機能デバイスである。世界でも数少ない“使える空間光変調器”だったため、国内外の多くの研究者がMSLMを入手して研究を進め、1980年代後半から1990年代にかけて光情報処理研究の発展に貢献した。

次に、実用性も考慮して、アモルファスシリコン(a-Si)をアドレス部として用い、液晶分子を基板に平行に配向したネマチック液晶層を光変調部とした平行配向液晶空間光変調器(PAL-SLM)を開発した。 PAL-SLMは読み出し光の位相だけを2次元的に2πラジアン以上変調することができ、理論限界に近い回折効率を有するデバイスである。このデバイスは電子管事業部に技術移管し製品化することができた。

さらに、PAL-SLMの特長を踏襲し、産業用途を見据えて、アドレス部をCMOS回路、光変調部を液晶とするLCOS型空間光変調器(LCOS-SLM)の研究開発を進めた。3年前に固体事業部に技術移管し売り上げを順調に伸ばしている。 LCOS-SLMの波形成形および波面補償の機能を使うことで、高度なレーザー加工、マーキング、顕微鏡、検眼鏡、多ビーム光ピンセットなどの具体的な応用分野が広がっており、ユーザーも研究機関から企業へと変化してきている。今後のビジネスとしての発展が期待できる。

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