R1年度(2019)高柳記念賞受賞
テラヘルツ(THz)周波数領域(0.3-10THz)は、マイクロ波領域(1-30GHz)やミリ波領域(30-300GHz)に比べ、イメージングに適用した場合の高い空間分解能や通信に適用した場合の広いバンド幅などの点で有用性が高い。そのため、爆発物や秘匿した武器に対するセキュリティ検査、食品、医薬品や各種工業製品に対する品質検査、生体医療向け診断、超高速無線通信などの応用に向けて検討が活発に行われている。しかし、現行のTHz検出器は、感度、動作速度、サイズ、価格、取扱いの容易さ、信頼性などの観点で依然として十分ではなく、THz波の広範な利用のためには更なる改善が必要とされている。
本研究の対象であるマイクロボロメータは、THz波の吸収に伴う温度上昇を検出する熱的な光検出器である。室温で動作するため冷却が要らず取扱いが容易で、シリコン集積回路の微細加工技術により小型で安価に作製できるなどの特徴を有するが、感度や動作速度などの性能には改善の余地が有った。候補者は、マイクロボロメータのヒーターとサーミスターの寸法縮小に対するスケーリング則を提案し、長さのみを縮小した場合には動作速度は寸法の二乗に反比例して向上するものの、感度は寸法に比例して悪化することを予想し、実験により示した。また、感度の悪化を補うためにはサーミスターにメアンダ(蛇行)構造を導入し実効的な長さを増大させることが有効であることを示しデバイス試作により実証した。さらに、長さ・幅・厚さを等しく微細化することで、感度、動作速度、消費電力の全てを同時に改善できるとする性能向上の指針を確立した。加えて、性能がスケーリング則の予想から外れる要因としてサーミスターの抵抗温度係数や導電率が線幅ととも低下する狭線幅効果があることを見出し、材料技術の面からの対策の重要性を指摘した。
これらの研究成果は、8件の査読付き論文と33件の国際会議で発表され、候補者と博士研究員の招待講演がそれぞれ4件と3件、候補者と指導学生の受賞が各1件など、高い評価を受けている。