R6年度(2024)高柳記念賞受賞
半導体ナノ構造を利用して,熱電発電に基づいた赤外線センサや生体センサの高性能化を目指した研究を行なっている.大きく分けると2つの具体的な研究テーマがあり,ひとつはフレキシブル熱電発電デバイスの開発,もうひとつはナノ構造材料のための熱電特性評価技術の開発である.
フレキシブル熱電発電デバイスは,生体センサの自己発電電源だけでなく,カーテンやテントのような形で日常や災害時の電源としても応用できる.そのためのフレキシブル熱電変換材料として,半導体ナノ結晶を種々の布上に成長させて,その特性について調べている.ナノロッド状の半導体結晶を布表面に垂直に形成した方が高性能化に有利と考え,化学合成法を用いて布上に ZnO ナノ結晶を成長させている.これまでに,マイクロ波を利用した成長により,短時間で垂直かつ密に ZnO ナノロッド結晶を成長させることに成功している.現在,熱電デバイスには n 型半導体と p 型半導体が必要なため,ナノロッド結晶の熱電変換特性を測定するとともに,Ag や Sb を添加した場合の結晶成長と熱電特性について調べている.
一方で実際にナノスケール化の効果を調べて材料設計をするためには,ナノ材料自体の熱電特性を測定することが必須である.そのために,入手しやすく汎用性が高い顕微鏡装置を利用して,ナノ構造のゼーベック係数および熱拡散率を測定する手法を提案・構築している.ゼーベック係数評価には表面電位顕微鏡(KFM)を用いて熱起電力と温度差を測定する手法を開発し,幅が数μm のリボン状に加工したSi について,ゼーベック係数を実測している.熱拡散率測定には走査電子顕微鏡(SEM)と赤外画像カメラを用いて,電子線照射加熱に応じた温度分布変化の過渡応答から熱伝導パラメータを評価し,直径10μm 以下の金属線や絶縁性の糸について,適正な熱拡散率を得ることに成功している.