歴代高柳賞-歴代高柳記念賞

S61年度(1986)高柳記念賞受賞

森田 之大(もりた ゆきとも)

【 浜松医科大学教授 】

光受容にともなう生体の電気現象について

生体の光受容器官に入力した光エネルギーは電気的信号に変換され、活動電位として神経線維を伝導し中枢へ伝えられる。この系について、ヒト、下等脊椎動物、無脊椎動物を用いて研究を行った。

  1. 脳内光受容器の電気的活動
    脊椎動物の中枢神経系には、間脳に松果体とよばれる部分があり、松果体ホルモンを分泌して、性腺活動の制御、生物リズムの発現等に、関与している。系統発生的に最も古い脊椎動物である円口類や硬骨魚類、両生類等を用い、松果体が環境の光情報を直接受容し、これを中枢神経系の活動に結びつけている事を、電気生理学的に、また微細形態学的、行動学的に検討した。得られた成果の主な点は次の通りである。
    1. 眼外光受容器として感受性の極めて高い光受容系である事を明らかにした。
    2. 両生類松果体では、暗順応によりスペクトル感受性が変化する事を確認した。
    3. 自然光の日周スペクトル変動を感知する能力を持つ事が分った。
    4. 松果体の光受容細胞と神経節細胞から、始めて細胞内記録による電気的応答を記録し、単一細胞レベルでの分析を行った。
    5. 行動リズムへの円口類松果体の関与を明らかにした。
    6. 松果体は個体発生の初期に既に分化しており、重要な役割を持つことを確かめた。
  2. ヒト大脳視覚領における光情報処理
    パターン視覚刺激を行い、大脳皮質視覚領に生じる電位変化をコンピュータにより分析した。サイン波変調による等エネルギー格子縞反転パターン呈示装置を開発し、誘発電位により空間周波数特性を調べ、臨床診断への応用を行った。
  3. 蚕の脳への光情報入力の分析
    蚕単眼の光受容は疑問視されていたが、微小電極を用いて単眼および、その求心性神経からの光による電位変化を始めて記録し、さらに脳からの光応答を確認した。

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