歴代高柳賞-歴代高柳記念賞

S63年度(1988)高柳記念賞受賞

水品 静夫(みずしな しずお)

【 静岡大学電子工学研究所教授 】

体内温度分布の無侵襲計測法に関する研究

マイクロ波技術を応用し、体内の温度分布を無侵襲計測する新しい温度計測法について研究し、動物実験などにより世界に先駆けてその可能性を実証した。

生体組織はその温度に比例した強度の熱雑音マイクロ波を放射している。体表から数cmの深さの組織から出た熱雑音マイクロ波は組織による吸収のため減衰しながら体表に達する。体表上に置いたアンテナを介してラジオメータ(熱雑音受信機)でこれを測定すれば、体表からある深さまでの観測領域の平均温度を輝度温度として測定できる。観測領域の断面はアンテナの開口でほぽ決まり、その深さは観測周波数が下がると深くなる。従って、複数の観測周波数で測定した生体輝度温度データを適切に処理すると、体表からの距離の関数として温度分布プロフィルを得ることができる。

この測定法を実現するには二つの問題を克服することが必要である。一つは複数の観測周波数において輝度温度を高い分解能(0.05K)と安定度(0.1K)で測定出来る、マイクロ波ラジオメータの開発、他の一つは輝度温度データから温度プロフィルを求める解析法の開発である。ことに、このデータ解析の過程は逆推定問題で、安定した解を求めることが困難な問題である。我々は未知温度分布を近似するモデル関数を導入することにより、この問題を回避して安定な解を得る手法を開発した。本研究では5コの未知モデルパラメータで記述できるモデル関数を使い、5つの異なった周波数(1.2,1.8,2.5,2.9,3.6GHz、帯域幅0.4GHz)で測定した生体の輝度温度データからこれらモデルパラメータを決定し、生体組織内の温度分布を推定することの出来る実験システムを開発した。データ解析には生体組織構造を表わすモデルが必要だが、皮膚、脂肪(または骨)、筋肉から成る平行平板モデルを使う。

5周波マイクロ波ラジオメータシステムを使い、豚肉ファントム内部の温度分布と麻酔下にあるウサギの腹部内部の温度分布測定実験を行った。深さ5cm程度までのラジオメータによる測定結果は熱電対による測定結果と0.5K程度以下の差で一致した。がん温熱療法の分野を中心に、その開発が世界的に渇望されている無侵襲体内温度分布測定技術の開発の可能性を実証できた。

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