歴代高柳賞-歴代高柳記念賞

S63年度(1988)高柳記念賞受賞

山口 豪(やまぐち つよし)

【 静岡大学工学部教授 】

半導体とくにシリコン表面の原子構造と電子状態

電子科学の研究に密接な関連をもつ、半導体表面の再構成した原子構造とその電子状態について、基礎的な理論研究を行った。とくに、表面科学の分野で20数年来その構造が謎とされ、この間数十ものモデルが提案された、シリコン表面のいわゆる7×7構造の原子配置を決定することに尽力した。バルクから切り出されたシリコンの1つの表面は、原子が変位したり、原子間のボンドを組替えて再構成し、バルクでの周期の7倍の周期をもつが、電子回折法などの過去の実験が実空間をフーリエ変換した逆格子空間での実験であり、必然的に「群盲間接的に象を撫でる」状態であったため、多数のモデルが提案されたわけだが、5年ほど前、走査トンネル顕微鏡による実空間の実験がなされてから、真の構造の確立へと前進した。我々は、表面における格子の歪に注目して、原子変位を求めた。原子変位はかなり大きくて、再構成した原子構造は上記の実験結果をかなり良く説明できることが分かった。東工大グループは別の実験から、吸着原子、双対原子および積層欠陥が絡んだ、かなり複雑な原子構造モデルを提案したが、数年を経てごく最近急速にそのモデルの正しさが一搬に受け入れられ、この問題は決着した。我々は、格子歪の立場から理論計算を行い、このモデルの確立に寄与した。

低速電子回折法はこれまで多数の表面構造を明らかにしたが、上記7×7構造など複雑な系に対しては限界がある。我々はこの低速電子回折法を発展させた熱散漫電子散乱法によって、シリコン表面の微妙な原子構造が決定できることを提案した。また、局在した電子の描像から、シリコン表面原子の不対結合の電子状態を計算し、X線光電子スペクトルの実験と比較、議論した。

走査トンネル顕微鏡は、極微小電流の制御など建設そのものが一つの大きな研究課題であるが。超微細表面粗さ計などとして応用範囲も広く、その静大西部キャンパスでの建設に理論的側面から参加している。

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